(1)卒論テーマの決定で考慮する要素

 慶應通信では卒業論文が必修なので、卒業を目指す場合、すべての人が対応を迫られます。論文を初めて書くという方は何を基準にテーマを決めたらよいか途方に暮れる人もいます。そこで、経験した範囲でテーマをどう考えたらよいかをまとめてみました。

 

1)興味が持てる内容
 何を今さらという感じですが、卒論は所定単位を満たした際に行う卒論指導登録の後、実際の研究計画書を提出し、それに基づいて指導教員の担当が決まり、指導教員の下で研究を進めます。大学が公式に制度として発表しているのは最短3回の指導ということなので最低1年半、多くは2~3年ほど一つのテーマの研究に寝食を忘れて取り組むことになります。よって、まったく興味が持てなかった科目の中から卒論テーマを選ぶと「心折れる」ということになりかねません。

 

2)問いへのアプローチが可能か
 卒論は日記ではないので、取り上げたい内容の議論状況(どこまでが明らかにされていてどこが明らかにされていないのか)の検証、明らかにしたいことが自身の行える学術研究の手法(文献調査、フィールド調査や実験など)で解決できそうかという点も重要です。フィールド調査の場合、手法としては可能だけど倫理上等の観点からアプローチが事実上出来ないなんて場合もありえます。そのようなテーマに突っ込むのは慎重な検討が必要(迂回的な方法が使えないかとか、明らかにする範囲を無理のない範囲に限定してみるとか)な場合があります。まずは、文献レビューでその辺りは判断しますが、全文いきなり読むのではなく、最初はアブストをチェックしてどんなアプローチでどんな結論にしたのかを短い文で掴むところから始めると慣れにもつながります。

 

3)賞味期限
 一つの研究には「賞味期限」があります。特に社会科学系(法学部、経済学部、文学部1類の社会学系)の研究では社会変化のスピードを受けて、短期間に研究のトレンドが変わるような領域もあります。そのような領域でテーマ設定をする場合、卒論を完成させるまでにテーマを取り巻く環境が変わって、「論ずる意味が無くなる」可能性が無いかも検討する必要がある場合があります。また、全ての専攻で共通ですが、論文は基本的に草刈り作業みたいなものなので、他の人が既に書いてしまった(草を刈った)テーマはもう同じ草は生えていないので刈れないとなります。その場合、どこが書かれていない(草が刈られていない)かを探す必要があります。逆に誰もやってない(あまり研究されていない)領域から選べば、自由度は上がります。ただし、先行研究が少ない分の制約はあります。

 

4)卒業後のライフプラン
 入学前にこれを書きたいという内容が既にある人も無かった人も卒業してどんな自分になりたいかを意識することは重要です。

 

5)無理はしない。
 大学からの公式指導(ガイダンス等)でも言及があると思いますが、1本の学術論文では基本的に最終的に言いたい結論は多くはしない方がまずは良いと思います。幹を何本も作ると骨格の構造が崩れるからです。決して、無理はせず、できる範囲で頑張るということも重要です。

 

6)井戸や温泉を試掘する感覚
 卒論テーマの決定作業は井戸や温泉を試掘する作業に似ています。初めから1本のみとせず、いくつか候補を用意して総合的に判断すると良いです。慶大に適した指導教員がいないなんてこともあるので、本指導の認定をもらうまでは予備テーマも考えておく必要があります。